大正時代の日本国において、大正衛生博覧會なるものが開催されました。結核療養所や東京帝國大學伝染病研究所といったところがその博覧會に参加したのです。
 ところで話はさておき、昭和60年の今ふたたび「衛生博覧会」という催しが行われようとしています。企画者はイラストレーターの太田螢一氏。彼が呼びかけた39名 *組)の優れた力が、衛生という大テーマのもとに様々な個性を表現する、絵画、立体、音楽等のオルガニックな創作運動博覧会。ですから彼らは、大正時代の物理的衛生にとどまらず、創作活動のかなたに『衛生』の二文字を見つめ、聖なる活動を妨げる不衛生な菌を駆除しようと試みます。いわば現代創作活動のトータルな治癒。では、太田螢一氏の開催主旨を。
 「現在、私達を取り囲む状況は、知らず知らずのうちに、制約・モラル等に縛られ、創作するという根源的意味 ─あくまで個人的であり、本能的であること─ が失われてきているのではないでしょうか。このことは創作する者にとって、精神的に“不衛生”なものだと考えます。私達は今一度“私”というものに忠実になり、精神的、創作的豊饒感を得たいと想います。その為に、一切の精神的不衛生、創作的不衛生を排除し“衛生”的な創作をどこまでも追い求めたい。これが『衛生博覧会』の姿勢です」
 こうした言葉、および日野日出志、吉田光彦といった顔ぶれなどからも、彼らの言う“衛生”を想像してみてください。創造を見つめる視力が回復いたしますよう。 (ビックリハウス誌)

「衛生博覧会」に学ぶもの
 これは、その「衛生」という言葉自体がもつエッセンスはもちろん要にはなっているのだけど、さらに意味解釈を広げて、“知らず知らずのうちに制約やらモラルやらに縛られて、創作するという根源的意味において本能的でないゆえに精神的に〈不衛生〉になってしまった”としてとらえた衛生主義のようなものを実は求めていて、ナカナカ学ぶべき姿勢が多そうな博覧会なのだ。そのテの衛生って、誰もが心に宿しているでしょう。たとえば営業マンとクライアントの間にはさまって自己主張できないクリエーター、お客と上司の間でヒアイを感じている営業マンとか。それが社会の縮図と言ってあきらめたらそれでおしまいだけど、気分のダイヤルをうまくチェンジできたら、意外とマナザシが変わっちまって、やる気2.5倍ということもあるはずだ。そのへんの変わり目に何が必要なのか、みたいなことまでを、保健委員のようなノリで追及してくれるのがこのアート展。(Q-TAI誌)

すみずみに、清らかな消毒を!!
 脳ミソがウラがえるような“日常の中の狂気”を描く含蓄のマンガ家、蛭子能収。線の中にロマネスクを築き上げる誌面の漁色家、ひさうちみちお。現代の人外魔境を求めて衛生博を企てた、曙の散歩者、太田螢一。などというような、奇妙な紹介文とともに登場するクリエーター達が、この度一同に会し、「衛生博覧会」なるものを催すこととあいなった。
 制約やモラルなどの精神的な不衛生を排し、本能のおもむくままに創作に取り組もうという、大胆不敵な試みなのだ。フェティシズムあり、SM観あり、死の恐怖あり、純粋なものありのこの博覧会、会場の様相はいかなるものになるのか、普通の人間の頭では、想像もつかない。したがって、自分で足を運び、その目で見て、触れて、この特異な感覚を感じとってほしい。 (スコラ誌)

 
 絵や立体や音楽など様々な方向から“衛生問題”へアプローチする、1テーマ、ノンジャンルのユニークな作品発表会です。
 平面作品は、アクリル画、油彩、水彩、写真をはじめ木版画、石版画、銅版画といろいろ。変わったところでは、影絵や切絵、入れ墨なども出品されます。
 立体作品は、布や糸やいろいろな材質に挑戦したオブジェや手工芸、石彫や人形など。音は、アコーディオン、ギター、カルテット、ピアノといったアコースティックなムードが中心となり、現代音楽、童謡、シャンソンの音楽会が開かれます。その他に8ミリ、スライド投影もあり、まったく目の離せない毎日となるでしょう。
(an・an誌)
不気味な顔合せの不思議な会話
 本来、純粋であるはずの創作行為というのが、知らず知らずのうちに様々な制約でモラルに縛られ、創作するという根源的意味が失われて来ている現在。それを精神的に不衛生とし、一切の精神的不衛生、創作的不衛生を排除した、衛生的な創作を追及したいということからこの展覧会が企画された。
 参加メンバーは阿部ハルミ、ひさうちみちお、凡天太郎、丸尾末広等約40人で、特異な作風を持った人ばかりだ。テーマが“衛生”ということだけで他に制約は特にないため、いったい何が飛び出してくるか解らない。不可思議で興味尽きない展覧会になりそうだ。なお、パフォーマンスは、3月2日に上野耕路、3日に須山公美子が予定されている。 (BRUTUS誌)
 気になる参加メンバーは、丸尾末広、吉田光彦、ひさうちみちお、川崎ゆきお、上田みゆき、蛭子能収、深津真也、そしてなんと日野日出志! 原マスミと上野耕路も参加する……とこれはスゴイメンバーだ。
 ゲルニカ以来、久々に活動を再開する上野耕路のライブは3月2日の3時から(翌日3日には池袋西武スタジオ200にも出演)。このライヴも含めて、このイベントは全て入場無料であります。 (宝島誌)

衛生博覧会記念公式行事『網膜的音楽』

上野耕路/清水靖晃/金子飛鳥/中村伸子/山森洋子/浅丘洋平(ぴあ誌)

画像で閲覧+ それぞれ大きめの画像が別ウィンドウで開きます。

いこうよ「衛生博覧会」へ
 まず、「衛生博覧会」について語るには、企画者であり、たぐいなき詩人にして、本業はイラストレーターの太田螢一氏が創った「衛生博覧会の唄」の一部を引用してみる。
  赤外線が映し出すレントゲン
  拡がりゆくは黒い影
  体温計の水銀は笑う
  ドキドキ響く聴診器
  行届く厳密な検査
  心ゆく衛生博覧会
      衛生博覧会へ
 この詩を読んで、「ゲルニカ」を思い浮べた人は正しい。太田氏は戸川純・上野耕路の「ゲルニカ」の企画者でもあった。
 もちろん、この唄には曲があるがここでお聴かせできないのは、しかたないことと、あきらめて欲しい。(グレープフルーツ誌より)

当ページをご覧の皆様、あきらめる必要はありません!
 ↓

記事